蓮見七月の部屋から考察

部屋から考える社会・世間

ニートのてきとうエッセイ   『ごめんなさい歯医者さん』

ぼくは怒られた。 

来週もう一度怒られる。

 

と、いうのも最近、歯医者に通っている。

僕の口の中には四本も親知らずがあるのだ。

 

歯の主はニートで親不孝。

口内では親知らず。

徹底して親に迷惑かけている。

 

それはともかく、通っている歯医者は女性が多い。

子供が遊ぶスペースも確保しているから、ターゲットも女性らしい。

 

初診の時はえらくドキドキした。

口を開けて女性にすべてを委ねる。

それを居合わせた女性に見られる。

 

ちょっとエロティックだと思う。

 

昔から、歯医者はSM的だと思っていた。

資格を奪われ、身動きもできない。

聞こえるのは恐ろしい機械の音と先生の声だけ。

 

歯医者は妖しい魅力を持っている。

 

などと考えていたら、ぼくの口を担当するのはお兄さんだった。

 

ふしだらな事を考えてるとロクなことにならない。

期待は裏切られるだけだ。

 

それでお兄さんに歯を抜かれた。

腕は確かで全く痛くなかった。

 

厄介なのは終わってからで、じわじわと患部が痛い。

寝れないこともある。

寝るのが仕事のニートが寝れないくらいだから、相当の痛みだ。

 

働いている人には早めの治療を薦めたい。

放っておくと雨におびえることになる。

気圧で痛むこともあるからだ。

 

しかし、肉艇的な痛みはなんとかなる。

逆に精神的な痛み、これが問題だ。

 

というのも、ぼくは口の中が汚いらしく、クリーニングもしてもらわないといけない。

 

この処置はお姉さんが担当してくれた。

幸いお姉さんは優しそうだ。

初めてのクリーニングの時、歯茎に器具が当たるとその都度、謝ってくれる。

「すいません。痛いですよね」

 

口を開けていたから、言えなかったけど、こちらこそすいません。

そう言いたかった。

それくらい優しいお姉さんだった。

 

初回はクリーニングをしてくれて、歯磨きをしっかりしてくださいね。

という忠告で終わった。

 

次の処置もクリーニングだった。

また優しくしてくれるだろう。そう思うと歯医者に行くのも嫌じゃなかった。

だけど少しだけ様子が違った。

 

「あー。」

お姉さんの落胆する声が聞こえる。

口の中の処理を終えてからお姉さんが話し出した。

「よごれが溜まってますね」

 

この言い方は確かに、前回言ったのになぁ。

そういう皮肉が込められていた。

 

「すいません」

ぼくはそういうしかない。

 

「どれくらい歯、磨いてますか?」

あっ。ぼくの歯磨きは不十分なんだ。

分かってはいたけども、誤魔化したい。

 

「せっかちですいません。昔から歯茎から血が出て」

あくまで悪気はない。迷惑を掛けようとは思ってない。

 

「あー。そうですか。もう少し。5分でいいからやった方が良いですね」

しっかり5分も磨いていないのがバレていた。

申し訳ない。

 

「はい。」

力なくそう答えることしかできなかった。

歯医者の持つ魅惑なんか考える暇は無くなった。

 

さらに

「お仕事で忙しいでしょうけど、やってくださいね。こことか」

歯ブラシで口の中を指しながらお姉さんは言った。

 

ぼくは右の眉毛を動かして、いかにも

「そうですね」

という反応をした。

 

ごめんなさいお姉さん。

 

ぼくは、無職です。

 

終わった後、お姉さんは笑顔で

「お疲れさまでした」

と言ってくれる。

 

あたりまえだけど全く悪気はないし

本当に優しい。

本当はああしろ、こうしろと言う人じゃなさそうだ。

 

優しいお姉さん。

指導させてごめんなさい。

 

歯医者さん。

ごめんなさい。